悔しいけど好き
「奥さんと子どもがいるのに?」
「っ…凪には実家に帰って来てもらう。俺が就職先を世話してもいい。お前の側にいるよりいいだろ?」
「それはあんたが決める事じゃないだろう?」
手の甲で口元を拭き血が付いてるのも構わずポケットに手を突っ込んだ。
凪を傷つけたのは俺が悪いがそれとこれとは話が別だ。
凪を奴の元になんて絶対行かせない。
「俺は言ったはずだ、妻と子供を捨てても凪を奪い返しに行く」
ギロリと睨む奴は本気のようだが俺はさっきの奴の態度を見て違うだろと首を振る。
「あんたは奥さんと子供を捨てるなんて絶対出来ない。だろ?」
「…」
奥さんといた奴はどう見ても幸せそうで子供を見る目は愛おしそうに細められ可愛がってるように見えた。
二人を捨ててまで凪を取るなんてことは到底できないと確信してる。
「あんたは凪を捨てた代わりに今の奥さんを取ったんだろう?今更凪に執着するのは止めろよ」
「凪を捨てた?何を言ってるんだ…」
嘲笑気味に笑った奴が目を瞑り上を向いた。
空はあっという間に闇夜に染まり星が瞬いている。
申し訳程度に点いてる街灯が奴の顔を浮かび上がらせた。
「別れが間違ってたと気づいた時には、凪は完全に俺の事を吹っ切れていた。そんな凪にもう一度付き合ってくれなんて無様なことは言えないだろう?冷静で大人な男が好きな凪にしたら幻滅ものだ」