悔しいけど好き
何を言ってるんだか…。
奴は凪の前で大人なふりをしていたかっただけで、プライドが邪魔をして本心を打ち明けることが出来なかっただけだ。

追い縋る奴を凪が「今さら?そんな情けない周くん見たくなかった」と冷たくあしらう。
…なんてこと凪がするはずがない。
ちゃんと奴と向き合い自分の気持ちを考えたはずだ。

「…それでも、言えばよかったんじゃないか?凪は受け入れてくれたはずだ」

おっ…俺は何を言ってる?
奴の情けない顔を見て同情でもしたか!?
ほんとに凪に告白でもしたらどうする!?


「……そうかもな…。でも、何もかも遅い。お前が言う通り俺は妻と子供を捨てたりなんてできない、わかってたさ」

「……」

内心焦ってた俺を余所に奴は空を見ている。
自分の言ったことに動揺してるとか情けない。
奴は気付いて無いようでこっそり胸を撫で下ろした。

「生まれた子供の可愛さに俺は毎日翻弄されっぱなしだ。産んでくれた妻にも感謝してる。凪を愛してることには変わらないがそれを上回る愛情と感謝が二人にはある」

この期に及んで凪を愛してるとのたまう奴に苦笑いが零れる。
まあ、奴の愛情は多岐にわたると思ってた方がいいのかもしれない。
俺もやきもきするのに疲れた。
深呼吸して気を取り直し奴に言った。

「俺、凪と結婚する」

「何?」

ギロリと睨まれても怯まずに真正面から奴を見据えた。

「もう二度と泣かせるようなことはしない。必ず幸せにすると約束するよ」

「…はあっ…君に凪を取られるのは、悔しいな…」

盛大にため息を吐いた奴に俺はにやりと不敵な笑いを浮かべ言ってやった。



「凪は俺しか愛せない。だから、あんたには絶対凪はやらない」



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