悔しいけど好き
ぼそぼそ言ってる奴の胸ぐらを両手で掴んで締め上げる。

「何ゴニョゴニョ言ってんのよ!」

「うわっ!ちょっ…!落ち着け!」

「うーるっさいっ!」

ぐっと力を入れると奴はソファーから浮き上がるようにして私の両手を掴んで来た。
さすがに男の力に抗えない私の手はあっさり引き剥がされ、奴がストンとまたソファーに腰を落としたもんだからバランスを崩して私はそのまま奴の胸に飛び込んでしまった!

「きゃっ…!」

「…ったくっ!悪かったよ!悪戯が過ぎた!謝る!」

「なっ…!全然謝ってないでしょ!離してよ!」

「暴れんなって!」

飛び込んだ胸に押さえ付けられるように抱きすくめられて身動きできない!

「凪!」

何とかもがき出ようとしていると名前を叫ばれビクッと思わず固まってしまった。

「…はぁ、お前の名前は風の無い穏やかな海だろ?なのにお前は荒れ狂う嵐みたいだな」

「…そうさせてんのは誰よ……」

いきなり名前のこと言われて調子が狂う。
ぎゅうぎゅう締め付けられてもう動くことも出来ない。
胸に当たる頬が熱くなってドッドッドッとまた壊れそうに心臓が暴れて一言言い返すのがやっとだった。
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