悔しいけど好き

ちょっと小話~周の憂鬱~

凪の結婚式が10月に決まった。
その前に2月の今日、あの彼と籍を入れるという。

奴にとうとう盗られる日が来たのか……。
感傷に浸り冬空を見上げた。
自分の吐いた息がもあもあと白く立ち上がり消えていくのをぼーっと見てると腕の中でもぞもぞ動く気配がした。

「あ、美波~今日はあったかいなあ」

今日は冬にしては暖かく散歩がてら羽柴家に行こうと美波と二人で出掛けていた。
話しかければ愛しい我が子はにこりと天使の微笑みを浮かべ俺をじっと見ている。

無意識に口元は緩み小さな背中を撫でた。
自分の子供がこんなに可愛いなんて知らなかった。
この子を捨てて凪を迎えに行くなんてどう考えても出来やしない。

『あんたは奥さんと子供を捨てるなんて絶対出来ない。だろ?』

悔しいが奴の言った通りだった。
凪を想う気持ちもあるのにこの子の愛しさの方が勝ってしまった。

勿論良き妻、良き母として尽くしてくれる妻も愛している。(決して次いでではない)
ぷくっと膨れる妻の顔が思い浮かばれつい苦笑い。




「よう、来たのか。ちょっと待ってろ」

海里の家に行けば出迎えた海里は何処かへ行ってしまった。
何時ものように勝手に居間へ行くとおばあちゃんがニコニコと出迎えてくれる。

「おばあちゃんこんにちは。ほら、美波~」

「よう来たねえ、よしよし美波ちゃんはご機嫌だねえ」

美波を抱かせてあげるといっそう目尻を下げてあやしてくれる。
さすがはおばあちゃん、赤ちゃんの扱いはお手のものだ。
おばあちゃんの横に座ると喜ぶ美波を見ていた。

「周くん」

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