悔しいけど好き

あれから一週間、事件は解決したと聞いたけど、今日出勤する凪ちゃんはどんなに憔悴仕切っているだろうと心配しながらオフィスに入ると、既に凪ちゃんと神城くんは出勤していて、正木さんのデスクの前に立っていた。

「あっ凪ちゃん!だい…」

「あっ!美玖さん!おめでとうございます!」

「え?」

足早に近付き大丈夫?と声を掛ける前に、振り向いた凪ちゃんは笑顔で私の手を取った。

何がおめでとうなの?
辛さなど微塵も感じさせない破顔した凪ちゃんにちょっと面食らった。

「美玖さんと部長の赤ちゃん!今からすっごい楽しみです!」

「お二人が付き合ってたなんて俺も今初めて聞きました!いやあ、ご結婚とご懐妊だなんてほんとダブルでおめでとうございます!」

「……え、え?」

凪ちゃんと神城くんに言われ唖然。
何でその事を知ってるの!?と、思っていたらクスクス笑い声がして見ればデスクに座る正木部長がいた。

二人に隠れて見えなかった!正木さんが言ったのね!
ちょっとムッとするとニヤリと笑う正木さんと目が合った。
こんな時でも色気のある目線にドキリとしてしまう。

早朝のオフィスは他に誰もいなく、テンションの高い二人に私は翻弄されっぱなしで何も言えないでいるとひとしきりはしゃいでた凪ちゃんが急に畏まった。

「美玖さん、先週はご心配とご迷惑をおかけしました。私、もう大丈夫です!」

「俺も仕事のフォローありがとうございました。もうご心配には及びません。凪は完全復活ですから」

「あ!美玖さんのフォローは私がしますね!美玖さんの事私が守ります!」

「あ!俺も協力しますんで!重たいものとか持つとき遠慮なく言って下さい!」

そう言ってくれる二人を見れば嬉しそうに笑っていて私も嬉しくなった。
私が凪ちゃん守ってあげたいって思ってたのになんだか頼もしく見えてつい頷いてしまった。

次々出勤してきた社員にもう暫くはこの事は内緒で、という事で話を打ち切り、凪ちゃん達は皆に休んでいた謝罪とお礼を言いに離れていった。

「正木部長…」

「ん?なんだ?」

「何であの事言ったんですか?」

悠然と座る正木さんに文句の一つも言ってやろうと小声で話す。
結果的に話した事は良かったかもしれないけど変に気を使わすことになってしまったら凪ちゃんの負担が大きくなるのではないか?と思うのだ。

「自分より守りたい者が出来ると人は強くなるものだ。美玖の事は羽柴にとってちょうどいい庇護対象になるだろ。それに知ってる者がいた方が美玖も助かるだろ?」

会社で滅多に言わない名前で呼ばれドキリとしつつ、凪ちゃんだけでなく私の事も考えてくれてたことに照れてしまった。

でも、そううまく行くだろうか?と思っていたけども、凪ちゃんは何かにつけて私を気遣ってくれて憂いた顔は全然見せなかった。
それどころか私の心配を余所にあの資料室にも平気で入る。

あの後資料室には監視カメラが設置され棚の配置も変わり以前の面影はほとんど無くなっていた。
だから全然平気です!と笑う凪ちゃんに強いなあととても感心したものだ。

ほんとに私が守るどころか私が凪ちゃんに守られてすごく助かっている。

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