悔しいけど好き
そして、困った事はもう一つ。

オフィスに戻るとガラスのドアから目に入る後ろ姿が二つ。
一つのパソコンを二人で覗き込んで何やら楽しげに会話してるのだが…おいおい、近過ぎじゃねえか?
ムッとしながら中へと入る。

「戻りましたー」

「あ、鷹臣お帰り」

声に気付いて振り返った我が愛妻凪の横で一生懸命パソコンを覗き混んでた奴も顔を上げた。

「お疲れさまです」

くりっとした大きな目に小さくまとまった顔のパーツが絶妙に整った今時の甘いマスクの男、凪いわく、子犬みたいで可愛い(俺はそうは思わない)という安達流星(あだちりゅうせい)はアシスタントとして凪が指導している大学出の新人だ。

営業受けしそうな顔してるのになぜアシスタントなのか腑に落ちなくて聞いてみたら、

「僕、定時で上がりたいんでアシスタント希望です」

と、にっこり笑って言いやがった。
ったく、今時の若いやつは働きたくないってのは本当なんだな?
男なら成果が目に見える営業でバリバリ働いてみろ!と言ってやりたい。

凪は弟の湊斗みたいでほっとけないと言って甲斐甲斐しく面倒をみているようだが、奴も凪になついて馴れ馴れしくしっぽ全開で振ってる状態が気に入らない。
大人な男が好きな凪が、う…浮気なんてするわけないが見てて気のいいものじゃない。
しかしそこは大人なふりして見て見ぬふりをする。

「あれ?嶋田さんは?」

「そのうち来るよ」

嶋田は一緒にいるだけで疲れるから会社が見えてきたところで置いてきた。
いくらなんでも迷子にはならないだろう。
少しずつ自分の周りの環境は自分で把握しないといけない。
これも教育の一貫だ。
うん、と自分で納得してるところへバタンと勢いよくドアが開いた。

「っもう!鷹臣さんってば!置いてくんだから!迷子になるところでしたよ!」

嶋田はドスドスと膨れながら迫って来る。

「え…あそこで迷子になるとかあり得ねえ」

「私方向音痴なんです!手を繋ぐくらいして下さい!」

「何で手を繋がなきゃなんねーんだよ!」

「だから!迷子防止です!教育係なんだからちゃんと最後まで面倒見てください!」

「子供じゃないんだから自分の面倒は自分でみろ!」

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