悔しいけど好き
「あの、凪さんわからないところが…」

「…あ、うん、どこかな?」

目を丸くして俺達を見ていた凪は安達に声を掛けられこちらの事はお構い無しでまた二人でパソコンを覗き込んでる。

安達まで名前で呼びやがって!それ以上近づくな!

と、くううっと苦々しく思っている間も嶋田はうるさい。
二人でヤイヤイ言い合っているのは最近恒例で周りのみんなは冷ややかな目ででチラチラこちらを見ながら仕事してる。
こんなくだらないことで言い合ってる場合じゃないのにこいつは言うことを聞かない。

「ちょっとこい!」

嶋田の首根っこを捕まえてオフィスから引きずり出す。
向かった先は資料室……を通り越した廊下の突き当たり。

「お前いい加減にしろよ!下らないことで言い合ってる暇ないんだよ!周りの迷惑を考えろ!」

「だってそれは!……」

嶋田が言いかけたとき数人の社員が廊下を通り、黙ってやり過ごしていると袖を引っ張られた。

「いくらなんでもここじゃ…あそこで話しましょう」

嶋田が指差したのは資料室。

「あそこは…駄目だ」

「え!?何でですか?あそこなら廊下にもあまり声が聞こえないからいくらでも怒鳴ってくれていいですよ?」

そんなに怒鳴って欲しいのか?
どういう趣味してんだと呆れるが俺はつい渋い顔になっていた。

「駄目なものは駄目だ。もういい仕事に戻れ。午後は内勤だ、企画書作成に時間を費やせ」

「え~」

企画書が苦手らしい嶋田はブーたれているが、怒る気も失せて資料室を横目で見ながらさっさとオフィスに戻る。

凪はもう全然平気だと言っているが、俺は未だにあのときの事が思い出されてあまり資料室には入りたくない。
俺が被害者でもないのに情けないと思う。

でも、あの時の事を極力話題には出さないようにしている凪だって本当は平気な筈がないんだ。
強がってないで本音を言って欲しいのに凪は大丈夫と言って笑ってばかりだった。

オフィスに戻ればまだあの二人は仲良く同じパソコンを見ていてつい苦虫を噛み砕く。

「お前も苦労が耐えないなあ」

「山本さん…」

先輩の山本さんはお前の全てをわかっているよ、とでも言うように肩を叩きウンウンと頷いている。

ほんとにわかってますか?山本さん。
あなたが一番面白がって見てるの知ってますよ。

と、言いたい。

けども止めておく。
味方は少しでもいた方が後々有利だろう。
俺がピンチの時には助けて下さいよ~
頼りない、けど。
と目線でテレパシーを送っておいた。

気付いてないだろう、けど。

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