悔しいけど好き
「お二人ってほんとに結婚してるんですか?」
「え?」
食堂で4人掛けのテーブルに座ると目の前の安達がしょうもないことを聞いてくる。
「ちゃんとしてるよ、指輪してるでしょ?」
安達の隣の凪が俺とお揃いの結婚指輪を見せている。
俺の隣の嶋田も俺の指輪をまじまじと見てくる。
凪は俺の斜め前。何で遠い?
遅れを取ったために最後に空いてた席がそこしか無かったからだが隣をちゃっかり陣取ってる安達がふっと俺を見て鼻で笑った。
いちいちムカつくな!
「指輪なんて結婚してなくても出来ますよ」
「ちゃんと籍も入れてるぞ。正真正銘俺達は夫婦だ文句あるか?」
「安達くんの疑問わかる気がするー。だって全然そんな風に見えない。夫婦でしかも新婚ならもっとラブラブな雰囲気が出るでしょ?」
「会社にまでプライベートを持ち込むなんてやーらしー!」って言ってたのは何処のどいつだ?
目を細め睨んでやるが嶋田は無視しやがる。
「職場にプライベートは持ち出さないようにしてるの。仕事に支障を来しても困るでしょ?」
「さすがは凪さん真面目ですね。尊敬します」
「そんな事ないよ、ただ仕事が好きなだけ」
おい、隣同士で笑って見つめあってるな!
ムカムカしながらカツ丼を頬張る。
「それでも納得いかないです。どっちかって言うと正木部長とか見てる方が凪さん目がハートですし」
「え?」
そういうとこだけ勘が働く嶋田をついギョッと見てしまう。
くそ、凪の好きなタイプを見抜いてやがる。
凪も図星を突かれ頬を赤らめ動揺してるらしい。
「もしかして偽装結婚?」
「はあ?」
「ほんとは正木部長と不倫しててそれを誤魔化すために偽装結婚してるとか?」
「どっからそんな突飛も無いことが出てくるんだよ!?」
嶋田は何を言い出すのか咄嗟に突っ込むが、凪は驚きで絶句してしまった。
「うん、確かに…。正木部長だと勝ち目無いな…」
何を納得してるんだ安達は!!
っていうか、俺相手だと勝てるとでも思ってるのか!?
「…何言ってるの?そんなことするわけないじゃない。正木部長と美玖さんに失礼よ」
俺が内心カッカとしてる間に凪が冷気漂う笑顔を浮かべ冷静に否定した。
さすがに慕ってる美玖さんのことを思うと例え冗談でも許せないのだろう。
凪の態度に嶋田も安達も黙りこくった。
好き勝手言いやがってザマー見ろだ!
って、ここは俺が黙らせなきゃならないだろ?!
情けねえ、俺……。