悔しいけど好き
「あ、いた。羽柴さん」

皆が注目する中、爽やかな笑顔で近付いてきた元村次長は3人目の新しい仲間。
中途採用、というか正木部長がヘッドハンティングしてきたらしい。
いきなりの部長に次ぐ役職付きで皆が悔しがってたが、たった2週間でも既に成果を上げていて誰も文句は言えない凄腕の営業マンだ。
俺もうかうかしてられない。

「元村次長、どうしたんですか?」

声を掛けて来た次長に笑顔で返事をする凪の顔をじっと見る。
気付けば安達も嶋田も注目していた。
実は困ったことは、まだある。

「食事中にごめんね?ちょっと急ぎでやって欲しい事があって」

「わかりました。すぐ行きますね」

「悪いね」

「いえ」

凪は立ち上がり俺達をぐるっと見回した。

「……安達くん、悪いけど食器一緒に片付けてもらってもいいかな?」

「もちろんです!僕がやっときますんで」

「ごめんね、じゃお先に」

凪は両手を合わせごめんねポーズをすると待ってた元村次長に足早に駆け寄り二人で食堂を出ていった。
その後ろ姿を見送り前を向くと安達が勝ち誇ったように笑っていそいそと凪の食器を自分のに重ねる。

「僕が頼まれちゃいました」

「ただ近かっただけだろ」

イラッとして吐き捨てると残ってたカツ丼をかっ込んだ。
凪のやつ一瞬目が合ったのに逸らしやがった。

「正木部長じゃなかったら元村次長じゃないですか?凪さんの好きな人」

「うっ…ブフォッ…!」

「わっ大丈夫ですかあ~」

嶋田が呑気に笑って俺の背中を撫でた。
またとんでもないことを言うもんだからかっ込んだご飯が吹き飛び安達にかかってしまった。

「う…!止めて下さいよ神城さん!」

安達は嫌そうな顔をして掛かった米を爪で弾きティッシュでゴシゴシ拭いてる。

「わ…悪りい…」

くそう!動揺した俺がバカだった。
こんな年下の新人どもに弄ばれてるなんてカッコ悪すぎだろ!

「やっぱり凪さんの好きなタイプって大人で余裕があって仕事の出来るイケメンでしょ!」

気付いてしまったか凪の好きなタイプ。
元村次長も正木部長も、あの幼なじみの奴も同じ、大人で余裕があって仕事も出来るイケメン。ついでに元村次長は色気まで上乗せされている。
男の俺が見ても、悔しいがいい男なんだこれが…しかも独身ときてる。

その上凪は元村次長のアシスタントも請け負ってるから安達同様近い距離に実はやきもきしていた。

「まあ、元村次長も正木部長も同じ系統のイケメンですよね?でも、神城さんはちょっとタイプ違いますね?大丈夫ですか?凪さんは結婚相手間違ってません?」

「うるせえな!余計なお世話だ。お前も全然違う系統だけどな!」

子犬系のお前は凪の眼中に無いんだよ!と、余裕など無い俺は負け惜しみの突っ込みを心の中で言い放った。

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