悔しいけど好き
「鷹臣さんはイケメンですよ~!社内一モテ男なのは元いた会社でも噂になってたんですから!」

「はあ?なんだそれ?」

そんな話は初耳だ。
他の会社でも俺の噂が飛び交ってるのか?世の情報網は侮れねえな!
思わず渋い顔で身震いする。

「だから興味があったんです!どんな人だろうって。結婚してしまったと聞いてがっかりしてたんですけど、実際会ったらやっぱりイケメンなんだもん!私は鷹臣さんの方が好きですよ?」

さらりと告白まがいのことを言ってのけた嶋田は下から覗き込んで来るから大袈裟なくらい引いた。

「ふざけたこと言ってんな!それ以上近付くなよ?」

「えー。私本気ですけど?」

「これはこれは、お二人はお似合いですよ?即離婚ですかね?そしたら凪さんは僕がもらいます」

「安達も抜かしたこと言ってんな!離婚なんて絶対しねえし!お前は凪のタイプじゃねえって言ってるだろ!」

「大丈夫です。凪さんには年下の新境地を開いてもらいますから」

「絶対お前ふざけてるだろ?」

「いえいえ」

「わあ!じゃあ私鷹臣さんもらいますねえ!」

安達を睨み冷気を浴びせてるとモノともしない嶋田が腕に絡んでくる。
離れろ!と、剥がしてるところで自分に影が射してることに気付いた。

「ちょっといいかしら?」

俺の冷気を上回るブリザードが横から吹いて来てピタリと動きが止まった。
声を掛けて来たのは同期で凪の親友、稲葉。

「あなた達だいぶ目立ってますけど?少しは周りを見たら?」

吹き荒れるブリザードで一気に体温が下がった気がする。
そおっと周りを見るとピーク時間は過ぎてるからか人はまばらだが皆がチラチラとこちらを見ていた。

なんだか最近こいつらのせいで周りが騒がしい。
その中心が俺なんだから世話ない。

「神城くん、ちょっと」

恐る恐る目を合わせれば稲葉の口元は弧を描いてるのに笑ってない目が俺を捕らえ、顎で外を指しさっさと踵を返して廊下へと出て行った。

はあ~~やべえ…

俺は盛大にため息をつくと立ち上がった。

「さっきの人こわーい!鷹臣さん大丈夫ですか?」

「…何でもねえ。食器頼む」

そう言って、目の前の安達に食器の乗ったお盆を差し出した。

「…え?何で僕?」

「二人分も三人分も一緒だろ?じゃ、よろしく」

転んでもただじゃ起きない俺は安達にふんと鼻であしらって稲葉の後を追った。

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