悔しいけど好き
「ドアの前で足が竦んじゃって…。私、男の人と二人きりってダメみたい」

「え?!」

「普段は大丈夫なんだけどな…」

告白とかじゃなくて正直ホッとした。
凪は落ち込んでるみたいだがあの次長と二人きりにならなくてよかった。
普段の凪なら見惚れてたかも知れない。

でもそれは…凪はやっぱりあのことが原因でトラウマを抱えてしまったということだ。
それにショックを受けてた凪はいつもよりよそよそしかったんだな。

あれから半年以上経ってるのに凪の心に重くのしかかっていた心の傷。
守るように抱き締めると凪は一瞬震えた。
もう大丈夫だなんて言ってたくせに、凪の「大丈夫」はやっぱり当てにならない。

「元村次長にも無理言ってオフィスで話してもらっちゃった。駄目だよね、ちゃんと馴れないと。鷹臣と二人きりは全然平気なのに…」

「いや、待て。そこは慣れなくていい」

腹黒な俺が顔を出す。
凪にとって俺はトラウマの対象外。
他の男どもは必然的に凪と二人にはならないということは色々と好都合では?と一瞬のうちに考えてしまった俺はつい言ってしまった。

「これから打ち合わせとか仕事で二人きりですることもあるのに駄目なんですとか言えないでしょ.。そんな迷惑掛けられない」

「二人きりとか駄目だ、打ち合わせにかこつけて何かあったら困るだろ!馴れる必要無い!」

いやいや、せっかく他の男どもを凪から遠ざけられるのに慣れてもらっては困る!
つい渋い顔で言ってしまうと凪は体を起こし目を丸くしてまじまじと俺を見つめた後プッと吹き出した。

「なにヤキモチ妬いてるの?かーわいー」

いつもの調子が戻ってきたのかまた凪はからかってくる。
心の狭い俺も悪いのだが、俺の苦労も少しはわかってくれても良くないか?
ついムッとして凪を睨んだが、クスクス笑う凪に釣られて俺も笑ってしまう。

「わかった、無理に治そうとはしないどく」

「そうだ無理はするな。あと大丈夫も禁句な?お前の大丈夫は全然当てにならないから」

「む…何よそれ。大丈夫だと思ったから大丈夫って言ってるのに!」

「考えてみろ!お前が大丈夫って言ってほんとに大丈夫だったことあるか?」

「ぅ……………」

凪は自分でも少しは自覚があるみたいだ、言葉に詰まり気まずそうに目を逸らした。
一人で頑張りすぎるのが凪のいい所でもあり悪いところでもある。
ふっと笑ってまた抱き寄せる。

「ほんとに、俺の前で無理するなよ。辛いことも悲しいことも全部俺が受け止めてやるから。二人で乗り越えていこう、夫婦なんだから」

「うん…ありがと。鷹臣も、辛い事あったら言ってよね。夫婦なんだから困ったことは二人で解決しよう?」

「…そうだな」

夫婦って、いい言葉だな。
二人の絆をより深めてくれる気がする。
凪と結婚してほんとによかった。

凪を強く抱きしめ肩に顔を埋めると凪の吐息が耳にかかった。

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