悔しいけど好き
翌日の朝。

「ねえ、ホントにするの?」

「ああ、奴らを黙らせるにはこれが一番手っ取り早いだろ?」

「でも、職場でそういうことするのは…」

「真面目過ぎんだよ凪は、ちょっとくらい良いだろ?まだ就業時間前だ、仕事中はそこまでしないし…」

ここは、会社の資料室。
久しぶりに入った中は模様替えされて以前の面影はあまりない。
あの時の事を思い出すと辛いが乗り越えるためにもここに二人で入った。

渋々俺の提案を受け入れた凪は窓へと目を向ける。

「一年経ったんだね、私達、ここから始まった気がする」

「そう言えばそうだな」

俺も横に立ち凪の肩を抱いた。
こんなことも会社ではしたことが無い。

一年前の年度末最後の日、俺が昇格し凪はアシスタントへ実質降格した悔しさをここで爆発させて、朦朧とした凪を俺が家まで連れ帰ったのがそもそもの始まり。
それから、仕事でぶつかる度にこの資料室で言い合って、よく鼻をかじって凪を黙らせた。
辛い事もあったがここは俺たちが近付き仕事に打ち込んだ特別な場所。

「ここからまた気持ちも新たに始めよう。奥さん?」

「そうだね、旦那さん?」

「なんでそこ疑問形?」

「なんとなく?」

ぷっと二人で笑ってそして、ゆっくりと近付いた。

夫婦が同じ職場にいるというのは何かと周りに気を使わすしやりずらいだろう。
でもそこを気にしすぎ横やりが入り余計ややこしいことになってる俺たちの現状を打破するための奇策。

仕事に支障がない程度にラブラブモード解禁!
二人に入り込めない雰囲気を作り邪魔してくる奴らを黙らせる作戦なのだが、独身者に夢を与えなさいよ!と言っていた稲葉の言葉に応えた形だ。
夫婦っていいな、同じ職場で仕事が楽しくなるなと思いたいということなのだろうと勝手に解釈した。
上手く行くかは知らないが…。

軽くキスをし、目を合わせ、またキスをする。
最初は嫌がってた凪も嬉しそうに微笑みキスに応えた。

「なんか、悪いことしてるみたい。ドキドキする」

「俺も…」

背徳感が余計に燃え上がらせると良く聞くが本当にそうだな。
悪いことしてる自覚があるのに欲望の方が打ち勝ってしまう。

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