悔しいけど好き
「何してるんだ?お前たち」

戸口でまた声がして見れば正木部長と後ろに本村次長もいた。
「なんにもしてませーん」と山本さんが気安く返事をしている。

「もうすぐ就業時間だ、油売ってないでさっさと仕事しろ」

「へーい、ほら、お前たち行くぞ」

山本さんが促し島田と安達はのろのろと部屋を出て行こうとする。

「ああ、そうだ、嶋田、安達、あまり仕事以外で騒ぎを起こすと教育担当を変えざるを得ないからそのつもりで」

「えっそれは嫌です!」

正木部長が二人に声を掛け、嶋田は血相変えて首を振った。
安達はなんで僕?と首を傾げている。
確かにいつも騒いでたのは嶋田ばかりで安達は俺に対してだけ悪態をついてたのだが…?

「なら、大人しく仕事だけに集中しろよ」

「はい…」

スゴスゴ戻っていく二人を見送り正木部長は俺たちの前に立った。
徐に俺の肩をぱんぱんと叩く。

「今までご苦労だったな。どう嶋田を抑えるのか面白…いや、静観してたんだが、なかなかの奇策だな」

「部長…面白がってたんですね…」

散々騒いでた嶋田に何も言わなかったのはそのためか。
ほんと、部長も人が悪すぎる。
俺は深い深いため息を吐いた。

「あれくらい抑えられなくてリーダーが務まるか?お前は仮にも主任なんだから部下のコントロールくらいちゃんとしろ」

「う…面目ございません」

それを言われると痛い。
俺は素直に謝った。

「とはいえ、まあ、俺もそろそろガツンと言わないとなと思ってたところだ。美玖がなあ…」

困ったような顔をして頬を掻く正木部長に凪が喰いついた。
珍しく美玖さんの事を話す正木部長に少し驚く。

「美玖さんがどうしたんですか?」

「いや、ぽろっと最近のお前たちの現状を言ってしまって、何とかしてやってくれと泣き付かれてな」

「美玖さんにまで心配させちゃってたんですか…赤ちゃんに悪い影響与えてたらどうしよう…」

「いやいや、そこまでにはならないから心配すんな」

凪の心配しすぎも困ったものだ。
正木部長も苦笑いで安心しろと言っている。
安達にも注意したのもそのためか?ということは安達の悪態も部長は知っていたというこだな。
美玖さんには感謝だが、まったく、ホントに部長は人が悪い…。

「ま、これであいつらも少しは大人しくなるだろう。また何かあったら今度は協力してやるから」

「はあ…」

もっと早く協力してくださいよ、この2週間を返してくれと言えるわけも無く心の中で嘆いた。

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