悔しいけど好き
声が出そうになって慌てて口元を押えた。
震え出す腕を押えて、思わず見てしまった先には自販機の明かりに照らされた鷹臣の後ろ姿と奴の首に腕を回し背伸びする女性。

それを見て弾かれたように走り出した。
気付かれないように、足音を立てないように。

エレベーターのボタンを何度も押して開いた瞬間に飛び込み閉ボタンを連打した。
扉が閉まって、ふぅううっと吐いた息が震えている。

「は…はは…」

乾いた笑いしか出てこない。

さっき見たのは明らかに告白シーンで、奴は…あの女性に告白した。
キスをしていたということは二人は両想い、これから付き合うことになるんだろう。

「よ…良かった…勘違いしなくて」

奴が、私を好きかもなんて甚だしかった。
やっぱりうちに入り浸るのは自分の家に帰るのが億劫だったから。
抱きしめてくるのもただの気まぐれ、もしかしたらあの女性の代わりに抱いてたのかもしれない。

奴にとって私は…やっぱり女とも思ってない、ただ一緒に居て楽な同僚でしかなかったんだ。


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