婚約解消してきちゃいました?ヘタレ令嬢様のチートキャンプ!
おかえりなさい。
そんな何気ない一言と、心からの笑顔を見せられただけで。
…この瞬間だけ、モノクロの景色がカラーになるのだ。
『……ただいま、羅沙』
こんな無力な自分にも、帰る場所はある。
そこは、暖かかった。
内気な彼女は、『あ、あの…』と俺の顔色を伺うように尋ねてくる。
『い、いっぱい働いたから、いっぱいお腹空いてませんか?今日の夕食、私が作ったんです…』
『へぇ?羅沙が?』
『は、はい!お兄様に教えてもらったうどんです!いっぱいフミフミしました!出汁もとりました!』
『フミフミ…』
一応、お姫サマだろ?なのに、うどんの麺フミフミして作る?厨房に立つお姫様なんて聞いたことがない。このアットホームな一族ならでは。
…でも、そのお姫様らしくないところが、またよかったりして。
最初は、友達のちょっと可愛い妹。
でも、同じ屋根の下で過ごし、そんな暖かさに触れると、想いは膨らむ。
自分のフミフミしたうどんを今すぐ準備してくると言われて、先に食堂で待つ。
そこには既に先客がいた。
お椀を口に付け、無表情でずびずびと汁を啜っている、羅沙の兄である夜迦だ。
ここに居座るなら労働のひとつでもしろと俺に言い放った張本人。