婚約解消してきちゃいました?ヘタレ令嬢様のチートキャンプ!
『戻ったのか』
夜迦がそう言ってお椀を下ろすと、ふわりと出汁の香りがした。
いい匂い…腹減った。
だが、それに被せて後追いの爽やかな香りが。
『…柚子の香り』
『ああ。今日のうどんは刻んだ柚子を入れたそうだ。なかなか美味だ』
『へえ…』
『それよりも畑仕事はいいだろう?女遊びよりも体が健やかでいられると思うが』
『…そのことをここで口にするな!』
『………』
何で?と無表情で首を傾げているところが憎い。
…そんな黒歴史、どこで羅沙の耳に入るかわからないだろうが!
何となくそう思えてしまったのは、もう自分の中で特別な存在になっているからだろう。
そんな彼女が『お待たせしました!』と、お盆に乗せたほかほかのお椀を配膳してくれる。
目の前のほかほかの湯気に乗った出汁の香りと、すっきりとした柚子の香りに包まれた。
(…温かい)
今の俺には…うどんの温かささえ、心に染みるのか。
いい匂い…。
柚子の香りを堪能してから箸を取ると、ふと視線に気が付く。
少し離れた場所から、羅沙にじっと凝視されている…。