婚約解消してきちゃいました?ヘタレ令嬢様のチートキャンプ!
…ええ、わかっていますとも。こんな忙しい中引き止めて、いかにアホな事を言ってるのかなんて。
時と場所と場合を弁えろって。
でも、ここで言わないと。
次いつ会えるのか、わからない。
「え?…え?な、何かあった?こんな時に?何で?」
「そ、それは…」
本当は、久々に竜宮にお戻りになった、昨日の夜言いたかった。
でも…。
そう言い掛けた時。
竜王様の背後には、人影が。
「竜王様、そろそろ…」
私達の様子を伺うようにしずしずと、一人の女性がやってきた。
私と目が合うと小さくペコリと頭を下げている。
琥珀色の綺麗な長い髪をした、細くて弱々しそうな、同じ歳の頃の女性…黎奈(れいな)様だ。
彼女の登場に、動揺と私の胸中では黒いものが込み上げてくる。
…昨晩、話をしたかったのに。
でも、竜王様はこの方のところに行ってしまっていた。
側妃である、この黎奈様のところに…。
そして、今日も。
この大事な訪問に、彼女を伴って阿修羅王領へと出立されるのだ。
正妃として婚約している私ではなく…この黎奈様と。
私をこんな突拍子もない行動に駆り立てた決定打は…これだ。