婚約解消してきちゃいました?ヘタレ令嬢様のチートキャンプ!
すると、そんな凪の背後からそっと顔が登場する。
「目が覚めたか」
お兄様だ。
何の表情を崩すこともなく、私を見ている。
私と同じ深い漆黒の瞳で、鋭い切れ味の眼力で。
私は体を起こそうとしたが、フワッと軽く目眩に襲われる。
凪が「無理しないでください」と背中を支えてくれて、どうにか起こすことが出来た。
「回復は早いようだな。さすが丈夫な体をしてる」
首の後ろでまとめられた長い黒髪を揺らして、お兄様は何故だか変なところで感心している。
だが、この場面でそんな言葉は要らない。私はムッとしてしまった。
お兄様には言いたいことが沢山ある…!
ここ数日の過酷な野営生活を思い出しながら反論してしまった。
「…何を言ってるんですか。私は死にそうな思いをしたのですよ」
「しめて11日間、飲まず食わずでただひたすら馬を走らせたことか?」
普段滅多に表情を崩さないお兄様だが、プッと失笑している。途端に私に背を向け、肩を上下に震わせていた。
「早い。早いぞ。あの距離、馬なら大体14日はかかるのに…かっ飛ばしてきたわけか…」
その様子を見て、凪が顔を引き攣らせている。