最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
振り返った先にいた青年は優美な顔に穏やかな笑みを浮かべると、厚い手袋に包まれた手をゆるく振って近づいてくる。

「遅くなってごめん。ナタリア、どうだい? 初めて乗ったソリの感想は」

「スピードがうんと出て怖かったわ。でも、もう一度乗りたい。今度はローベルトと一緒に!」

少女は寒さで赤かった頬をさらに薔薇色に染め、長い睫毛に囲まれた目を何度もしばたたかせながら、彼に向ってはにかんだ。

ふたりが和やかに会話を弾ませる様子を、少年はただ黙ってしばらく眺める。それから大げさな笑顔を作って、明るく声をかけた。

「よし、じゃあふたりとも乗りなよ。俺がまた御者をやってやる」

雪の積もった離宮の庭に、若者たちの明るい笑い声が響く。

――シテビア王国第一王女ナタリア、十歳。スニーク帝国第一皇子ローベルト、十七歳。第二皇子イヴァン、十五歳の春だった。



ナタリアは生まれたときからローベルトとの結婚が決まっていた。

スニーク帝国によるシテビア王国への支配を強めるための政略結婚でもあるが、遠縁として仲のよい両王家の友好の証でもあった。

両王家は休暇を共に別荘で過ごすなど家族ぐるみで盛んに交流をし、ナタリアとローベルト、それにローベルトの弟であるイヴァンの三人は、幼なじみと呼べるほど仲睦まじく育った。
 
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