最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「スヴィーニン夫人、あなたは運がいい。俺はこの旅行に来てからずっと機嫌がいいからな。特別に大事なことをふたつ教えてやろう。――ひとつ。俺は妻以外の女と会話を楽しむ気はない。ふたつ。皇帝が銃の手入れをしているときはひとりにするのがこの国での暗黙の了解だ。わかったな」
怒鳴られるか、衛兵を呼んで摘まみ出されないだけでも幸運に思えと、チラリともジーナを見ずに言ったイヴァンのそっけない横顔が語っている。
けれどジーナはイヴァンの忠告などまるで聞こえていないかのように、優雅な足取りで部屋の奥へと歩いていった。そして窓から明るい笑い声の聞こえる中庭を眺めて口を開いた。
「プラチナブロンドが陽の光にきらめいて、なんてお美しいのかしら。ナタリア様はスニーク帝国すべての女性の憧れですわ」
中庭ではナタリアと侍女たちが、花壇の花を眺めて楽しそうにお喋りしている。それをうっとりとした目で見つめながら口にしたジーナの意外な言葉に、イヴァンは銃身を磨く手を止めた。
「陛下。私は心からナタリア様を敬愛いたしております。もちろん、陛下のことも」
「……何が言いたい。用件を言え」
てっきり色目を使いにきたのかと思いきや的を射ないジーナの話に、イヴァンは軽く苛立ちと疑義の念を抱いて、彼女の言葉の続きを促す。