最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「そんな傲慢なことは申しておりません。ただ、ナタリア様の前で気丈なお姿でいるために英気を養う必要がございましたら、陛下はどのようにこのジーナ・スヴィーニナを扱われてもよろしいということをお伝えしたかったのです」
淀みなくそう言い切ったジーナに、イヴァンは「ハッ」と鼻で笑って手にしていた猟銃を彼女に向けた。
「たいした覚悟だ。では俺がうるさい雀が癪に障ると言えば、お前は喜んで今ここで撃ち殺されるのだな」
手入れをしていたのだから銃弾が入っていないとはいえ、銃口を向けられているのだ。イヴァンの怒りを察し、慌てて謝罪して逃げ出すのが当然の反応だろう。
しかしジーナは「もちろん」となめらかな声で言って、銃身の横をすり抜けイヴァンに顔を近づけた。
「なぶるも殺すも、どうぞお心のままに。私はただ両陛下の幸福を願っているだけ。愛も地位も見返りなど求めません。私のことは自由に使える玩具とでもお思いください」
悪魔のように囁いて、ジーナはそっと離れていった。
射るように睨むイヴァンの眼光にも怯まず、ジーナは淑やかにドレスの裾を持ち一礼して部屋から出ていく。
扉が閉められたのを見てイヴァンはチッと舌打ちすると、苛立ちをあらわにした手つきで猟銃をテーブルに投げ置いた。