最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
心が不快にざわつく。
へりくだった言い方をしていたが要は愛人志願だ。知性にも教養にも、そして色香にも自信があるから、皇帝の愛人にふさわしいと彼女は自分を誇示しにきたのだ。見返りを求めず、どんな扱いをされてもいいなどと従順さまで見せつけて。
(口達者で卑しい女だ。次に同じ真似をしたなら俺を侮辱したとみなして牢に放り込んでやる)
愛人志願などしてきたジーナに対して蔑む気持ちしか湧かなかった。
それなのに必要以上に憤懣やるかたないのは、彼女の発した言葉に直視したくない真実があるからだ。
――『ナタリア様に心癒されることはあっても、最愛の女性の前で子供のように泣き、甘えることなど陛下は決してされないはず』
認めたくはないが、その通りだった。
ナタリアは自分ではどうしようもない心の病を抱え、そのせいで宮廷の内外から奇異の目で見られている。そんな彼女を支え守り抜くためにも、決して己の弱みは見せられないとイヴァンは思っている。自分が眉を顰めることが、ナタリアを不安に陥らせると理解しているからだ。
イヴァンはナタリアにとって絶対的な存在でなくてはならない。強く、気高く、すべてから彼女を守る唯一神のような存在であり続けることが、ナタリアの夫に課せられた使命だ。
それはイヴァンにとって喜びでもあり、ときに苦悩でもあった。