最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
ローベルトとイヴァンは愛らしいナタリアを妹のようにかわいがり、ナタリアもふたりを本当の兄のように慕っていた。
しかし無邪気な三人の関係は、ナタリアの成長と共に少しずつ形を変えていく。
最初に恋を覚えたのはナタリアだった。
それは未熟な少女の淡いものだったけれど深く彼女の心に根づき、いつしかナタリアは自分がローベルトの婚約者であることに幸福を感じるようになっていった。
次に恋を知ったのはイヴァンだった。
ナタリアがローベルトに見せる笑顔が自分に向けられるそれと違うと気づいてから、彼の胸は痛むようになった。
その傷は日を追うごとに深くなり、初恋を覚えたばかりの少年は幸福よりも先に、報われない想いの切なさばかりを知ることになる。
ローベルトがナタリアに抱いていた気持ちは恋だったのだろうか。
ナタリアより七歳年上の彼が彼女に恋慕を抱いていたかはわからない。ただ彼が小さな婚約者を心から大切に思っていたことは確かで、それはもしかしたら恋ではなく愛と呼べるものだったのかもしれない。
少しずつ大人の階段を上り形を変えていきながらも、三人は互いを大切に思い共に過ごす時間をかけがえのないものだと感じていた。
幸福で、けれども少しだけ切ない関係が粉々に打ち砕かれたのは、ナタリアが十歳の早春。
翌週に控えたナタリアの誕生日を祝うため、両王家がブールカン山脈の離宮へ集まったときだった。