最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
皇帝としての責務に心身ともに疲れ果てたとき、ナタリアを抱き、そのぬくもりに埋もれ眠りたいと願った夜が何度あっただろうか。
しかし結婚式の初夜以降もナタリアは心の調子を崩しがちだったため、ふたりが体を重ね何事もなく朝を迎えられたのはまだ数回ほどだ。
イルジアに来てからは頻度は上がったが、それでもイヴァンは安心して蜜夜に酔うことはできない。
初夜のときにナタリアがローベルトの名を呼んだことは、イヴァンの心に深い傷となって残っている。
ナタリアがどんなに扇情的な姿を見せようと、お互いの肉体が昂ろうと、イヴァンは恐怖を消し去れない。その麗しい唇が吐息の合間に、また違う男の名を呼ぶのではないかという恐怖を。
(――俺はナタリアと結ばれたといえるのだろうか)
そんな自虐的な考えがよぎり、イヴァンはソファの背凭れに寄りかかると天井を仰いで手で目を覆った。
体は確かに結ばれた。愛し合ってもいる。けれど心は結ばれていないと感じるのは、イヴァンが彼女に本心を曝け出したことがないからだろう。
不安などすべて忘れて本能のままにナタリアを抱けたなら。満身創痍の心ごとナタリアに抱きしめてもらえたなら――。
叶わない望みを頭の中で打ち消して、イヴァンは奥歯を強く噛む。