最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
数ヶ月ぶりに再会した三人は楽しい時間を過ごした。

ともに雪原をソリで駆け、暖炉の前で本を読み、夜はパーティーで背伸びをしてワルツを踊る。

けれど楽しければ楽しいほど別れはつらく、いよいよ帰国が明日に迫ったその日。寂しさからすっかりいじけてしまったナタリアを、ローベルトとイヴァンは苦笑しながらなだめていた。

「またすぐに会えるよ、ナタリア。それに手紙も書く。いつもきみを思うよ」

泣くのをこらえてむくれながら歩くナタリアの後を、ローベルトが慰めの言葉をかけながらついていく。

離宮は山から少し離れた場所にあって、町へ向かう道を反対に行くと、山に続く川と森林公園があった。ナタリアが川沿いのプロムナードを気に入っていたので、この自然豊かで静かな道を散歩するのはここに来てから三人の日課になっていた。

けれど今日ばかりは、彼女の足取りは弾んでいない。フエルトのブーツに包まれた足で、一生懸命に雪を踏みしめ大股で歩いている。

「そんなの嘘よ。だって国に帰ったらローベルトは軍務に就くのでしょう? きっと軍隊の生活に夢中になって、私のことなんかちっとも思い出さなくなっちゃうわ」

ナタリアの言う通り、十七歳になったローベルトは王家の決まりで軍務に就くことになっていた。女の入り込めない世界に彼が行ってしまうことに、ナタリアは置いてきぼりを食らったみたいで寂しくて仕方がない。

どうにも機嫌の直らないお姫様の背中を追いかけながら、ローベルトとイヴァンは顔を見合わせて苦笑する。
 
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