最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
イヴァンが側近たちのけなげな罠に気づいたのは、司令部の雰囲気が報告とはまったく違っていたからだ。
ルカは『陛下がいらしたことで皆反省し、態度を改めたのでしょう』などと言っていたが、諍いが本当にあったのかどうかなど兵士たちの様子を見ていれば分かる。
総司令官の座を巡る派閥争いも、隙を突いたテルキット海軍の攻撃も、最初からなかったに違いない。
すべてはイヴァンを帝都から――ナタリアから離すため。ナタリアという問題から遠く離し、一時でいいから心を安らがせるための嘘だ。
きっと心優しいオルロフ辺りが発案し、ルカや将官らに協力を煽ったのだろう。
皇帝を騙し遠方へ発たせるなど重罪もいいところだ。イヴァンがいない間に帝都でなにか問題でも起きれば、それこそ国家転覆罪の容疑をかけられない。
けれど、それほどの覚悟を負ってでもオルロフたちは皇帝を癒したかったのだ。
ナタリアを守り支え続け限界を迎えようとしているイヴァンの心を、救わなければいけないと。たまらず罪をかぶる覚悟で手を差し伸べたのだ。