最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「……雪……」
厚い雲から、チラリ、チラリと白い結晶が落ちてくる。
帝都コシカにこの年初めての雪が降ったのは、イヴァンが南の戦線へ発ってから二週間が過ぎた日のことだった。
病院への慰問に行くため馬車に乗ろうとしていたナタリアは、自分の頬に冷たい欠片が落ちてきたことに気づいて空を見上げていた。
「あら、寒いと思ったら初雪ですね」
ナタリアの供についていた侍女も、天を見上げて言う。そして「お体を冷やしませんように」とナタリアの肩に羊毛のショールをかけて、馬車へ乗り込むよう促した。
「イヴァン様はどうしてらっしゃるかしら。南の方はまだ雪が降らないけれど、寒さはきっと厳しくなっているでしょうね。風邪など召されていないといいけど」
馬車の窓から南の空を眺めて、ナタリアは遠い戦地にいる夫に思いを馳せる。
できることならイヴァンと離れたくなかったし、危険な戦線に彼を行かせたくなかった。けれどそれが通用しないわがままだということも分かっている。
ただ毎日夫の無事を祈り想いを馳せることしかできない自分が、ナタリアはもどかしかった。