最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
早春の早い日暮れは、空を真っ赤な血のように染め上げていた。
あれから三時間が経っていた。
『すぐ戻る』の約束に程遠いその状況に離宮は騒然となり、ローベルトを探しに出た護衛隊のうち森林公園方面に捜索に行った隊が真っ青な顔で戻ってきたのは、夕日が沈み切る前のことだった。
両王家夫妻と衛兵と侍従たちで不穏にざわめく玄関ホールに、ナタリアとイヴァンも駆けつける。
「どうしたの!? ローベルトに何があったの!?」
大人たちの間を縫って進もうとするナタリアの体を、そこにいた衛兵が慌てて掴んで止めた。
「なりません、ナタリア様! 部屋にお戻りください!」
けれど止めようとする衛兵や侍従らの手を、イヴァンが振り払ってナタリアを離させる。
そして大人たちの制止を振り切って玄関ホールまで出たふたりは、そこで変わり果てたローベルトの姿を見た。
担架に乗せられ運び込まれたローベルトは、人の形を成していなかった。
狼か熊か獣に食い荒らされ、その肉塊がローベルトだと証明できるものは彼の身に着けていた衣服の一部と、アスケルハノフ王家の紋章がついた剣帯だけだった。そして――。