最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
イヴァンは青ざめて剣帯のサーベルを抜こうとしたが、腕が痺れて言うことを聞かない。その間にも狼はこちらへ近づき、今にも飛び掛からんとしていた。
恐怖と緊張でイヴァンの心臓が痛いほどに加速を始める。そして狼たちはいったん足を停めて身を低くすると、弾かれたように一斉に襲い掛かってきた。
「うわぁっ!」
武器を握れないイヴァンはその場にしゃがみこんで体を固くする。しかし――狼が飛び掛かった先はイヴァンではなく、躯のローベルトだった。
「あ……あ、ローベルト……」
何匹もの狼に襲われ体を失っていくローベルトを眼前にして、イヴァンは立ち竦む。こんな状態で生きているはずなどないのに、狼に食われながらローベルトはイヴァンに向かって語りかけてきた。
「お前は悪い子だね、イヴァン。お前があのときナタリアのわがままを否めたなら、僕がひとりで森に行くのを止めたなら、こんなことにはならなかったのに。それなのにお前は自分の罪を省みることもなく、帝位とナタリアを手に入れた。なんて汚い子だろう。たったひとりの兄である僕のことなど忘れ、ナタリアを抱くのは幸せだったかい?」
ローベルトの緑色の瞳に見つめられ、呼吸が苦しくなる。全身に鳥肌が立ち、汗が流れ落ちた。