最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「俺は……俺は……」
何かを言いたいのに、呼吸が乱れて声がうまく出せない。泣き出しそうな顔で口をパクパクとさせていると、躯のローベルトが笑った。
「僕に申し訳ないと思っているんだろう? だったらナタリアを返してもらっても構わないよね? あの子は僕のものだ。ナタリアだってずっと僕のことを愛している。気づいていたんだろう? 本当のナタリアはお前ではなく僕の腕に抱かれたがっているって」
イヴァンの脳裏に、心をさまよわせるナタリアの姿がよぎった。あてもなくさまよい、天に腕を伸ばしてローベルトの名を呼ぶ姿が。
「お前は分かっていたはずだ。ナタリアが昔の記憶を取り戻したら、お前の愛を拒む可能性があることを。僕を愛し失ったナタリアが自分の罪を忘れ、弟であるお前と幸せになることを選べるはずがない。ナタリアは記憶を封じ、お前は真実に気づかないふりをして偽りの愛を築いている。そんなものが本当の愛であるはずがない。汚いお前には皇帝たる資格もナタリアの夫である資格もない。地獄へ落ちろ。お前もナタリアを失えばいい」
気がつくと、イヴァンの頬を熱いものが流れ落ちていた。
それが自分の目から溢れる涙であることに、長年泣くことの出来なかったイヴァンは気づかない。