最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「……俺は……」
その場にガクリと膝をつき項垂れる。十年間目を逸らし続けていた己の罪、偽り、弱さ。それらを抉り出され剥き出しにされ、心が粉々になっていく。
イヴァンは両手で顔を覆った。呼吸が乱れしゃくりあげているうちに、自分が泣いていたのだと知った。
「返せ。ナタリアを。お前にナタリアを愛する資格はない」
ローベルトの声が耳から毒薬のように流れ、心と頭の中を絶望に染めていく。
イヴァンはボタボタと涙を落としながら歯を食いしばり、呻いた。そして口を開きかけて、噤む。
――「ごめん」と言おうとした。兄に詫びようと思った。けれどそれは違うと、自分の中の何かが叫ぶ。
卑怯だったかもしれない、偽りだらけだったかもしれない。それでも十年以上、信じて揺るがなかった真実がある。
「……嫌だ。ナタリアは返さない」
震える唇で、嗚咽と共に絞り出した。