最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「俺は……間違っていない。俺は、俺のすべてでナタリアを愛してきた。ただそれだけだ。ローベルトが死んだのは運命だ。誰も罪を負ってなどいない。そして俺はどんな運命でもナタリアを愛していた。たとえローベルトが生きていたとしても、俺は義弟としてナタリアに一生この心を尽くした。俺は……ナタリアを愛している。それだけは偽りじゃない」
手の甲で涙を拭ってイヴァンは立ち上がる。いつの間にか動くようになっていた手で剣柄を掴むと、鞘からサーベルを抜いてローベルトのもとへ向かっていった。
近づくローベルトの頭の高さが自分より低い。十五歳だった体は、今の大人のものに戻っていた。
「そして、ローベルト。……いや、兄上。俺はあなたのことも好きだった。それなのに自分の弱さと向き合えなかったせいで、ずっとあなたの亡霊に怯えていた。……優しい兄上が、あんなに可愛がっていたナタリアを黄泉へ誘うはずなどないのにな」
イヴァンは握っていたサーベルを掲げ、振り下ろした。それは周囲の狼ではなく、目の前の躯のローベルトに。
「お前は兄上じゃない。俺の弱さと後ろめたさが生み出した亡霊だ。兄上は俺のこともナタリアのことも、恨んでなどいない。――ナタリアに、呪いなどかけていない」
口にしながら、イヴァンは理解した。ナタリアの奇病の原因を。
(――俺たちは共に逃げていたんだな。己の弱さから)
ナタリアと再会してから六年。ふたりはローベルトの話をしたことがなかった。