最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
躯のローベルトも周囲にいた狼も消えていくと同時に、白い世界も霧が流れるように晴れていく。
空は青く澄み渡り、太陽がまぶしく頭上に輝いていた。
ふと何かが触れた気がしてイヴァンが自分の手を見ると、サーベルの代わりに小さな花を握っていた。
「……雪割花……」
手の中のあえかな白い花を見つめて呟いたとき、頭をふわりと風が撫でていった。
顔を上げたイヴァンの瞳には、残像だけが残る。――優しい笑みを浮かべたローベルトの残像だけが。
「……ありがとう」
心からの笑みをイヴァンが浮かべたとき、世界は柔らかな光に包まれた。
遠くに、幼い兄弟の笑い合う声が聞こえた。