最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
 
――イヴァンがコシカ宮殿のベッドで目を覚ましたのは、雪割花捜索から一週間後のことだった。

ブールカン山脈のふもとで銃声を聞きつけた護衛隊が駆けつけたとき、そこには絶命した二匹の狼と大怪我をして意識を失っているイヴァンが倒れていた。

イヴァンは脚と肩を深く負傷しており左手にサーベルを握ったまま倒れていたが、固く握りしめた右手の中には小さな白い花が包まれていたという。

イヴァンは離宮で応急処置を受けた後、意識の戻らないままコシカ宮殿まで運ばれた。

皇帝がこん睡状態に陥ったことに国中が嘆き悲しみ、回復を祈った。

そして彼が眠り続けて一週間後――奇跡は起こった。


「……イヴァン様……!」

ゆっくりと開かれた青い双眸に、ぼんやりと人影が映る。

だんだんと輪郭のはっきりしてきたそれは、サファイアのような瞳にいっぱいの涙を浮かべているナタリアだった。

「ナタ……リア……」

掠れる声で呼びかけると、ナタリアの目から堰を切ったように涙が溢れだす。
 
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