最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
「イヴァン様! イヴァン様……!」

ナタリアはイヴァンに取り縋って幼子のように泣き声をあげた。

そばで控えていた侍従や医師たちもイヴァンが目覚めたことに気づき、途端に寝室がざわつき始める。

侍従がすぐに水を運び、医師がイヴァンの脈や状態を確認する。部屋には皇帝が目覚めたとの報せを聞いた人がどんどん押しかけ、人垣を割ってオルロフやルカも駆けつけてきた。

イヴァンは傷の痛みこそあるものの意識は正常で、上体を起こすことも出来た。

皆が歓喜にむせび泣く中、イヴァンはかたわらで涙を拭っているナタリアの髪をそっと撫で、「心配をかけたな」と穏やかに微笑んだ。

イヴァンはナタリアがここにいることに密かに驚きと喜びを抱く。ブールカン山脈へ出発する前は、心を乱し部屋から出てこられない状態だったのだ。今ここにこうして寄り添ってくれているということは状態がよくなったのだな、と安堵する。

するとナタリアは髪を撫でていたイヴァンの手を取って自分の両手で包み、それに頬を擦り寄せて言った。

「本当によかった……イヴァン様が目覚められて……生きていてくださって本当によかった……。もし、万が一のことがあったら、この子は父親のぬくもりを知らない子供になってしまうのですから」
 
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