最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
ローベルトの死を目の当たりにして意識を失ったナタリアは、目覚めた後、何もかもを失っていた。
ひと言も喋れなくなった彼女は感情さえも失い、まるで呼吸するだけの人形だ。
希望に輝いていた瞳は虚ろに宙を見つめ、声をかけられても聞こえていないかのようにピクリとも動かない。
食事も着替えも自分からしようとはせず、病人のように介助が必要になった。
ショックで心が壊れてしまったのだと、医師は説明した。この先、治るかどうかもわからないと。
両親も宮廷も国民も誰もが悲しみ嘆き、やがて涙が乾く頃、ナタリアはひっそりと隠されるようにシテビア王国の南の辺境にある離宮、チェニ城へと移され――公式の場に彼女が姿を見せることはなくなった。
森に囲まれた誰も訪れない城で、ナタリアは誰とも心通わせることなく育つ。
生きているのか死んでいるのかもわからない年月を過ごしながら、それでも彼女は美しく育っていく。
世話係らは嘆いた。「王女様はあんなにお美しく成長なされているのに、笑みひとつ零されない。まるで我々とは心通わせられない雪の妖精のようだ」と。
そんなナタリアに小さな奇跡が起きたのは、十五歳のとき。
誰も訪れなかったチェニ城に、数台の馬車がやって来た。スニーク帝国王家のグリフォンの紋章をつけた馬車が。