最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
訪れたのは、スニーク帝国皇太子となったイヴァンだった。
四年前にローベルトが亡くなったことで、スニーク帝国とシテビア王国は一時的に険悪な関係に陥り、帝位継承一位の皇太子を失ったスニーク帝国国内もしばしざわついていた。
ようやくそれが収まり、両国の関係も良好とまではいかないが修復されつつあるときだった。
「ナタリアに会いにきた」
十九歳になりすっかり少年から青年へと様変わりしたイヴァンは、眉目秀麗な面立ちはそのままに男らしさを増し、次期皇帝としての威厳も兼ね備えた男性になっていた。
四年ぶりにナタリアに再会した彼は、十五歳になった彼女の姿を見て目を見張る。
言葉も心も失いチェニ城に軟禁されていると聞いていた彼は、ナタリアはきっと病人のようにやつれ、少女だった頃の溌溂とした魅力の面影は失せているのだろうと想像していた。
しかし、窓際の椅子に腰かけあてもなく宙を見つめるナタリアは――息を呑むほど美しかった。
もともと色の白かった肌は人ならざるもののように青白く、神秘的な美しさを誇っている。生命力あふれていた瞳の輝きは失せ、ここではないどこかを見ているように虚ろなのに、睫毛の影を落とした青い瞳はまるで永久に凍りついた海のように謎めいていて、強烈に惹きつけられた。
どこかくたびれた印象のプラチナブロンドが表情のない顔にくったりと掛かり、彼女の消えてしまいそうな儚さに拍車をかけていた。
「……ナタリア……」
彼女の部屋を訪れたイヴァンは他の者を下がらせ、小さく呼びかけてから窓際へと足を進める。