最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
ナタリアはローベルトの死を目の当たりにしたショックで一時的に落ち込み、言葉を失っただけだ――四年間彼女に会うことなく、人づてに話を聞いていたイヴァンはそう思い込んでいた。
彼は知らない。ナタリアの心がもはや、形などなくしていたことを。
「兄上の……ローベルトのことはお前にとっても不幸なことだったと思う。けれどいつまでも悲しみにとらわれていては駄目だ。前に進もう、ナタリア。大丈夫だ、俺がついている」
イヴァンがそう語りかけたとき、奇跡が起きた。
虚ろだったナタリアの瞳が大きく開かれ、四年間声を発さなかった唇が震えながら動く。
「……ローベルト……」
四年ぶりに麗しい唇から紡がれたのは、彼女が沈黙する前に呟いた名と同じだった。
「ナタリア……!」
イヴァンは希望に破顔する。ひとことも喋らなくなったと聞いていたナタリアが、さっそく言葉を発したのだ。自分の力があれば彼女の回復は早いと、彼が希望を見出すのも当然だった。
けれども。
奇跡が必ず喜びをもたらすとは限らない。それは或いは、新たな絶望の扉を開く鍵にもなり得るのだから。
「……ローベルト、どこ……?」