最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「ナタリア!」
イヴァンは火がナタリアのドレスに燃え移る前に慌てて叩き消し、倒れたままの彼女を抱き起した。
けれどナタリアはイヴァンの腕から抜け出そうと、力いっぱい手足を暴れさせる。
「いやっ! いやぁっ! 助けてローベルト! ローベルトぉっ!」
「落ち着けナタリア! 俺だ、イヴァンだ! 怖がらなくていい!」
「ローベルト助けて……! どこにいるの、ローベルト……」
抱きしめ押さえようとするイヴァンの胸を叩き、手に爪を立てながら、やがてナタリアはしゃくりあげて泣きだした。まるで幼子のように。
「ローベルトぉ……、ローベルト……」
「……ナタリア……」
いくら四年間も王女教育がなされていないとはいえ、十五歳の少女とは思えないありさまだった。
その姿にイヴァンは既視感を抱く。ああ、これは――子供の頃のナタリアだ、と。
彼はようやく気がついた。十五歳のナタリアの心が今ここにはないことに。