最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
彼の声に応えたのは、眠り続けていた四年前のナタリアだ。ローベルトの死を受けとめきれなかった彼女の心は、その直前で時を止めることを選んだ。永遠に彼の帰りを待ち続けるとしても。
「……ナタリア……!」
イヴァンは美しい顔を苦悩に歪め、腕の中のナタリアを強く抱きしめる。
――ずっと焦がれていた少女は、兄の婚約者だった。そして大きな悲劇の後、紡ぎ直した運命で彼女と悲しみを乗り越えて未来を共に歩もうと思った。
けれど差し伸べた手は振り払われ、未来に続く希望の道は暗闇に塞がれた。
イヴァンの愛に、行き場はない。
――それでも。
「……愛してるんだ、ナタリア。俺が必ずお前の心を治してやる。必ずお前を悲しみの牢獄から解き放つ。大丈夫だ。俺がそばにいる」
イヴァンは腕の中のナタリアを愛し続ける。彼女の魂が、永遠にローベルトの婚約者であったとしても。
王都から遠く離れた森の城に、この冬初めての雪が降る。
長く冷たく苦しい冬の、始まりの日だった。