最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
舞踏会より半年が経った六月。
長い間病に伏せっていたスニーク帝国皇帝が崩御し、ついにイヴァンが皇帝の冠を戴くことになった。
イヴァン・ロマーノヴィチ・アスケルハノフ皇帝。アスケルハノフ朝第六代皇帝の誕生である。
帝位継承の儀式、および戴冠式は国内の大教会で粛々と行われ、新皇帝の即位を祝う祭りが国を挙げて行われた。
新たに皇帝の座に就いたとはいえ、イヴァンは数年前から父に代わって国家君主の任務を務めている。農奴制の緩和に取り組み国民の九割である農奴の負担を減らすなどしたイヴァンは庶民からの支持も厚く、彼の皇帝就任には帝都から国の隅々まで祝いの声があがった。
そうして即位にまつわる大掛かりな式典や祭事などが終わり、国内も平常通りの落ち着きを取り戻しつつある九月。
イヴァンはアスケルハノフ家の者と高官らを集めた晩餐会で、己の結婚について言及した。
「俺の妻はかねてからの予定通り、シテビア王国のナタリア王女に決定する」と。
晩餐会の場は、残念ながら歓迎には湧かなかった。
むしろ大臣たちからは反対の声が多く、晩餐会は和やかな雰囲気から遠ざかっていく。