最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「スニーク帝国の皇后になろうというお方がまともでないなど、諸外国に示しが尽きません! 皇后は外交の花形、その役割の大きさは陛下とてご存知でしょう!?」
外務大臣のユージンが喚くと、同席していた広報官長やら国務官長やらも同意して頷く。
イヴァンが口を開く前にそれに反論したのは、侍従長のオルロフだった。
「『まともでない』とは無礼が過ぎませぬか、ユージン大臣。ナタリア様は確かに時折お心をさまよわせることがありますが、それを除けば他に類を見ないほど素晴らしいお方です。我が国の皇后として迎えるにふさわしい品格があのお方にはございます」
イヴァンの側近であるオルロフは、ナタリアのことをそばで何度も見ている。確かに大きな問題はあるが、それでも罵倒して切り捨てることなどできないほど尤物な王女であることを彼は知っていた。
そして、ナタリアの存在が主君であるイヴァンにとって大きな活力になっていることも。
「その『お心をさまよわせる』行為こそが問題なのではないか! ナタリア様がお心をさまよわせたまま戻らなくなったらどうする!? それこそ外交どころか跡継ぎを生むことすら不可能になりかねん!」
「そのような傾向は今まで見られません、杞憂です。それに我が国とシテビア王国の婚姻はナタリア様がお生まれになったときから決まっていたこと。一方的に破棄すれば国交に亀裂が生じかねません。そのことの方が問題です」
「はっ! 何を今さら! ローベルト殿下がお亡くなりになられたときから、両国には修復のしようがない亀裂が生じておる! そもそもローベルト殿下をあのような目に遭わせたのはあの王女だというのに、どうして我が国母として迎えることが出来る!? ローベルト殿下の御霊がお許しになるはずがない!」