最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
激高したユージンの言葉に、場が静まり返った。
この国では禁句ともいえる発言だった。
ローベルトが亡くなったとき、その原因を巡ってスニーク帝国とシテビア王国が緊張状態に陥ったことがあるのは、国民なら皆知るところだ。
ナタリアのわがままがローベルトを森に向かわせたのは確かだ。けれど護衛をつけなかったのも、森へ行って花を摘むという選択したのも、すべてローベルトの判断である。
ただの子供の気まぐれと不注意。そして不運な事故。本来なら原因を追究して責めるべきことでもない。
けれど子を愛する親の気持ちはそんな簡単なものではなく、さらにその親が皇帝夫妻で子が皇太子ということが、この事故の問題を深く大きくした。
イヴァンが長年にわたり尽力してきたおかげで、今現在両国間の緊張状態は解けているように見える。
けれど、ローベルトの事故は一部のスニーク帝国民の心には根深く残り、未だに行き場のない思いを燻らせ続けている者もいる。外務大臣のユージンもそのひとりだった。ローベルトが誕生したときの典礼で外交官の道が開けた彼は、密かにローベルトに恩義を感じていたのだろう。
ユージンのように八年前に亡くなった皇太子に未だ敬慕の念を抱き、その死に納得の出来ない者は幾人もいる。ただ、君主であるイヴァンがシテビア王国との友好を回復しようとしている中で、そのことを声高に叫ぶことは誰も出来ないでいた。