最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
そんな光景を目の当たりにして、イヴァンはこらえきれず呻いた。嵐のように渦巻く感情は恐怖なのか、怒りなのか、いつか忘れた自責の念なのか。混濁しすぎていてわからない。
痛いほどにこぶしを握りしめ、イヴァンは天を仰いで虚空に向かって吠える。
「ナタリアは俺の妻だ! 連れていくなローベルト!!」
――ローベルトの呪いだなど、信じたことはなかった。
ナタリアが心をさまよわせるのはあくまで医学的な問題があるからで、死んだローベルトが彼女を呼んでいるなどと、耳を貸したくもない俗言だった。
けれど今、雪と細氷の中で手を伸ばしているナタリアの瞳には映っているのだ。
彼女の時を八年前で止め、永遠に愛される存在になったローベルトの姿が。
イヴァンはどうしてナタリアがスニーク帝国に輿入れをしてから症状が悪化したか、理解できた気がする。
この国は自分が担う国であるとともに、ローベルトが永眠した地でもあるのだ。
たわごとだとわかっている。けれど感じずにはいられない。ナタリアの魂がこの地に眠るローベルトの魂に惹かれているのだと。
「駄目だ! ナタリアは渡さない! ナタリアは……俺のものだ!」
叫んで、ローベルトはナタリアに向かって腕を伸ばし、そのか細い体をうしろから掴まえた。