最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
「いやぁあぁ!!」

体を抱きしめられたナタリアの悲鳴が、真っ暗な空にこだまする。

「離して! 助けて……ローベルト!」

「ナタリア……帰るんだ。帰ろう、ナタリア」

「ローベルト! ローベルト!」

腕の中でもナタリアはもがき、必死に天に向かって腕を伸ばす。まるであと少しで届く救いの手を掴もうとしているように。

けれどどんなにもがいても華奢な手が掴むのは虚空ばかりで、ナタリアの抵抗はだんだん弱まっていく。

「どうして……ローベルト……どこ……」

やがておとなしくなったナタリアは涙をひとすじ零すと、失神したかのように突然眠ってしまった。

イヴァンは拘束していた腕をほどき、くったりと脱力している彼女を腕に抱え直した。

寝間着姿のまま外をさまよい歩いたナタリアの体は冷え切ってしまっている。手足が赤く腫れ凍傷になりかけているのを見て、イヴァンは唇を噛みしめ顔をしかめた。

「可哀想に、痛いだろう。すぐに温かい湯に浸けてやるからな。大丈夫だ、すぐによくなる」

深い眠りに落ちているナタリアに語りかけて、イヴァンは優しく微笑んだ。そして彼女の冷たい体をコートの内側に抱き込んで、自分の熱を分け与えてやる。
 
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