最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
細い体が氷のように冷たくなっているのを肌で感じ、イヴァンはまぶたの裏が熱くなってくるのを目を固く閉じてこらえた。

(憐れなナタリア――。お前が抱きしめたがっていた男は、お前の体を凍てつかせることしかできないのに。俺ならばいつだってお前を温めてやることができるのに。可哀想なナタリア――それでもお前は、ローベルトを求め続けるのか?)

ナタリアの愛する男が彼女にぬくもりを与えられるのならば、まだあきらめもついただろう。

けれど八年前にその男は永遠にぬくもりを失ったのだ。この雪の大地より冷たい躯になって。

「……愛している、ナタリア。だから……生きてくれ」

もしも今日のようなことがまたあって発見が遅くなったらば、ナタリアの体は二度とぬくもりを失うだろう。愛するローベルトと同じように。

もしかしたらそれが彼女の望みで幸せなのかもしれない。けれどイヴァンにそれを許すことは出来ない。

(ナタリアは生きている。雪姫ではなく人間として。そしてこれからは妻として、一生俺の隣で生きる。たとえナタリアの心が永遠にローベルトの婚約者だとしても――彼女の命を温め続けるのは、俺だ)

細く冷たい体を抱きしめながら、イヴァンは雪を踏みしめ歩く。その心に救いのない愛を抱えたまま。

捜索隊が公園の出口でふたりを見つけたときには、厚い雲越しに空が白々と明けようとしていた。 
  
 
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