最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
布の室内靴のまま雪の上を歩き続けていたナタリアの足は軽度の凍傷を起こし、治療が遅れればあやうく壊死してしまうところだった。
さすがに今回のことは大きな騒動となり、二週間後の結婚式について宮廷では緊急に会議が開かれることとなった。
「結婚式は中止すべきです! ナタリア様は明らかに正常じゃありません! 我々はスニーク帝国民として、ナタリア様を皇后としてお迎えするわけにはいきません! どうかお考え直しください!」
今度ばかりはユージンの意見に頷く者が多数だった。オルロフをはじめとしたイヴァンの側近らさえも、皆黙ったまま俯いている。
ナタリアの側近らからも、チェニ城に戻り療養させるべきだと嘆願されていた。
けれど、イヴァンは決して頷かない。彼は結婚式の中止も延期も認めなかった。
「環境に慣れてくれば錯乱する回数も減ってくるはずだ。警備も以前の三倍に増やした。もう二度とひとりで部屋を抜け出すことはない。それに結婚後は俺と寝室を共にするのだから、安全に問題はないだろう」
ユージンが「そういう問題ではございません! 結婚など無理だと――」と反論しようとすると、遮るようにイヴァンがテーブルを強く叩いた。
「黙れ! ナタリアは俺の妻になる! 口を出すな!」
横暴なイヴァンの言葉に、臣下たちは口には出さずとも密かに呆れた。
皇帝陛下は意地になっておられる。ご自分で決められた結婚だから間違っていたと認められないのだ――この会議室にいるほとんどの者が、腹の中でそう感じていた。
けれど、オルロフや数人の側近はそうではないと知っている。