最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
(陛下はただ、ナタリア様を深く愛しておられるだけだ)
あの日の光景を思い出し、オルロフは会議の席で俯いて奥歯を噛みしめる。
「話し合う必要など何もない。時間の無駄だ」
そう言い捨てイヴァンが椅子から立ち上がり部屋から出ていってしまうと、途端にあちこちから陰鬱なため息が聞こえだした。
「スニーク帝国はもうおしまいだ。世継ぎも望めなければ、気狂いの皇后など世界中の笑いものになる。スニーク帝国の支配下にある国たちは尊敬できない皇帝と皇后に反発を強めるでしょうな」
ユージンは大げさに肩を竦め、十字を切った。他の臣下たちも賛同し、十字を切ったり頭を抱えたりする。
そんな光景を横目で見ながらオルロフは会議室を出てイヴァンを追った。
曲がった廊下の先で見つけたイヴァンはその歩調から、気が穏やかでないことが見て取れた。
オルロフはイヴァンに声をかけようとしてやめて、そのまま黙って彼の背についていく。
そして密かに十字を切って両手を組み、君主の苦悩が救われることを神に祈った。