最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
スニークの空に雪が舞う。
森も街も人も、白く冷たく染めて。
――一月。皇帝夫妻の結婚式は予定通り開催された。祝福の紙吹雪のように、チラチラと雪の降る日だった。
銀のブロケードに真珠をちりばめたドレスを纏ったナタリアと、勲章を飾った儀典装の軍服にダイヤの留め具がついた緋色のマントを羽織ったイヴァンの婚礼姿は、まるで神話の絵画のように凛々しく、幻想的な美しさを誇って人々の目を奪った。
スニーク帝国史上もっとも秀麗ともいえる花嫁と花婿の姿に、結婚に反対していた臣下らも思わず感嘆のため息をつく。
宮殿から帝都にある大教会までの移動には皇帝夫妻を乗せた黄金の馬車を中心に百台もの馬車が連なり、帝都のすべての教会が祝福の鐘を響き渡らせた。
街道の言祝ぐ人々に手を振りながら、皇帝夫妻の乗ったオープン馬車はゆっくりと教会へ向かっていく。
「大丈夫か、ナタリア。疲れただろう。教会に着いたら少し休むといい」
民衆に手を振りながらも、イヴァンは隣に座るナタリアをたびたび気にかけていた。
「イヴァン様ったら、さっきも大丈夫と申し上げたじゃありませんか。こんなにたくさんの人々がお祝いしてくださっているんですもの、喜びで疲れなんか感じません」
肩を竦めてナタリアはおかしそうに笑う。その愛らしさにイヴァンもつられて微笑むものの、心配が晴れることはなかった。