最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
そんなナタリアが、イヴァンは哀れで愛おしい。

きっと彼女は薄々気がついている。自分が意識を失うことで周囲を困惑させていることに。

けれどそれを追求することをイヴァンが望んでいないことにも気づいている。

だからナタリアは明るく無垢に振舞う。周囲に奇異や哀れみの目を向けられ、意識を失っているときの自分が何をしているのか不安になっても。

ただ笑顔で明るく、今の自分にできる精いっぱいでイヴァンや周囲に優しくあろうとしていた。

「イヴァン様でも緊張されることがあるのですね。結婚式の日に、夫となる方の新しい一面を知りました」

肩を竦めて頬を染めながら微笑んだナタリアに、イヴァンも曇った表情を消し微笑み返す。

「緊張もするさ。戦場で百門の大砲の前にさらされても俺の心臓はビクともしないが、神の御前でお前と愛を誓えると思うと嬉しさのあまり心臓が極限まで高鳴る」

そう言ってイヴァンが頬に添えられたナタリアの手にキスを這わせると、沿道の民衆からワッと歓声が上がった。

ナタリアは照れくさそうにはにかみながら、歓声に応えるように沿道に手を振る。イヴァンも軽く手を振りながら、もう片方の手でキスを這わせたナタリアの手を握り続けた。
 
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